私好みの新刊 20255

『島はどうしてできるのか』 前野 深著 BLUE BACKS   講談社

 島といってもさまざまなでき方がある。大陸のへりに出来る島もあるが、

海底火山による島もある。著者はあちこちの海底火山の調査に加わってい

た。その経験から、海底火山による島のでき方を各地の事例を通してくわ

しく紹介している。海底火山というとあまりなじみがないが、近年も福徳

岡の場火山の噴火により大量の軽石がはるか沖縄県まで流れ着いたことは

記憶に新しい。海底火山には海底特有の災害も起きる。海底火山の形態や

被害の様子は、陸上火山とどのような違いがあるのか興味深い内容である。

 海底火山は海底噴火なので島に成長するものもあれば消滅する火山もあ

る。まず取り上げられているのは、1930年に起きた薩摩硫黄島火山以来と

して2013年に噴火した西ノ島火山、福徳岡の場火山についてくわしく論じ

られている。海底噴火にもいくつかの様式があるという。陸上火山の噴火

でもあるが、海底火山噴火でも爆発的噴火と非爆発的噴火があるという。

爆発物の粘性によるが、海底火山でも火砕物がガスと共に勢いよく噴き出

すものとマグマは砕けずに火口から溶融状態のままで溶岩となって流れ出

るタイプもある。

 噴火による破壊と創造では、1883年に噴火したインドネシア・クラカタ

ウはほとんど消滅したという。しかし、1927年の噴火ではまた復活した。

ほんとに海底火山噴火は目まぐるしい。山体崩壊による津波の被害も報告

されている。ちょっと歴史をさかのぼるがギリシアのサントリー島噴火な

ど、古代文明滅亡に影響を与えた噴火も紹介されている。

後半部では、火砕流など陸上火山とも共通する災害例も多く紹介されてい

る。特異なのは、マグマ水蒸気爆発により起きる大噴火の影響で大気波動

が起き、津波誘因の事例もあるという。いくつかの「コラム」欄が設けら

れている。ここには火山噴火の特徴なども述べられているが、研究者は島

の堆積物からも噴火の歴史をさぐるという。いろいろな事例が述べられて

いて興味深い。              20247月 1,200

 

『クジラがしんだら』 江口絵理/文 かわさきしゅんいち/絵 童心社 

 同様の本が2冊続いて出された。一つはアメリカの海洋学者が描いた

『海にしずんだクジラ』(BL出版)とこの2024年に出た江口絵理さん文の

童心社版。どちらも、深海に沈んできた一匹のクジラの死体が以後50

とも100とも言われる長い期間、深海に棲む生き物の命をつなぐという壮

大な話である。ある時一体の巨大な死体が海底に沈んできた。さてどんな

生き物がクジラの死体を見つけて順に現れてくるだろうか。

 以下、江口さん本にそってページを繰っていくと・・。最初の数ページ

は深海の静かな海の様子が描かれている。海の生きものたちはおなかをす

かして食べ物をじっとまっていると・・。大きなクジラの死体が静かに沈

んできた。何十年もの命を終えたマッコウクジラの死体だ。さあ海の生き

物たちはどのようにふるまうだろうか。まずやってきたのは・・ユメザメ。

あのクジラの厚い皮膚にがぶりと食いついた。次に大きく開けられた皮膚

に集まってくるのはアナゴたち。やがて臭いをかぎつけて大きな甲殻類ダ

イオウグソクムシ、魚が食べ残したカスもきれいに食べてしまう。何年も

のごちそうらしい。後も続く海底の多くの生き物たち。やがてクジラの体

も骨のみになった。さてもう生物はやってこないのだろうか。

 やがてクジラの骨にも生物があらわれた。ホネクイハナムシという生き

物が、骨にたくさん住み着いている。骨の髄まで吸い取っているのだろう

か。時は流れる。骨しか食べられないハナムシはたくさんの卵も産んだ。

そして海中をさまよいまた別の骨を見つけるのだ。この本はこれで終わっ

ている。別の本によると、ぼろぼろになった骨はやがてマット状になり沢

山の細菌を育てるとか。命のバトンは続いていく。                       

                     20249月  1,800

            新刊紹介